~こんな案件ありました~「15階建てのマンションが7階建てに?その理由は?」その3
第二回ではこちらの訴えが認められ、建築確認が取り消されるところまでお話ししました。
今回はその後の顛末をお話いたします。
1 全国放送で報じられた建築確認の取り消し
第二回でも触れたように、この事件で最初に報道したのは、NHKでした。
建築審査会という行政機関が、マンション建築確認を取り消すというのは、非常に珍しいことだったのです。
早朝にはNHKのヘリコプターが現場上空を飛び、建築途中の高層マンションを生中継。地域だけでなく、広く注目を集めることになりました。
2 建築許可が取り消されたあと、どうなったか
建築確認が取り消されたことで、マンション工事はいったん中断しました。
本来であれば、建物をすべて撤去し、もう一度最初からやり直すのが筋です。
しかし、業者は確認機関と綿密に話し合い、建築中途の建物を活かすため、以下のような方法をとることにしました。
- ① 敷地を「A地」だけに限定
もともとは2つの土地を合わせて計算していたところを、「A地」だけでの建築基準(建ぺい率・容積率)を満たすように再計算する。 - ② 設計を変更して13階から7階建てに
すでに建て始めていた部分を残しながら、一部を撤去して建物を小さくする。 - ③ 新しい建築確認を取得して再開
修正後の7階建てマンションは、改めて建築確認が下り、工事が再スタート。
数か月の遅れは出たものの、最終的には完成・完売となりました。
確認機関は、自らの判断に責任があったため、建築途中の建物をどう活かすか、業者に細かいアドバイスをしていたと考えられます。
3 B地のその後
もともとマンションの敷地として計画されていた「B地」は、まずは駐車場として使われました。その後、区画整理によって、一戸建て住宅の分譲地として販売されることになりました。
また住民側が申し立てた仮処分の抗告審は、建築審査会の決定を踏まえ、業者が受け入れる形で終了しました。
こうして、13階建てだった計画は7階建てに変更され、最終的に法的な争いも終結しました。
4 住民の怒りが訴訟に発展した背景
この事件からは、ひとつ大きな教訓が得られます。
住民の反対運動がここまで強くなったのは、事業者の対応が不十分だったことにあります。
最初の説明会は、ただ建物の概要を形式的に説明するだけ。住民の声に耳を傾けようとしませんでした。(聞く耳を持たないのに説明会をしようという事に不思議に思われる方もいるかもしれませんが、本件のマンションは建築にあたって周辺住民への説明会を行う事が、広島市の条例によって義務付けられていたのです。)
このことを行政に陳情しても取り合ってもらえず、マンション問題に詳しい弁護士への相談もすぐには叶わない。困り果てた住民の方々が広島欠陥住宅研究会に相談に来られ、私が担当することになりました。
電話を受けたその日のうちに現地へ行き、住民の方々の話を伺い、地域住民13名から委任を受けて仮処分申請を行いました。
住民が特に怒りを募らせたのは、業者の「話を聞こうとしない姿勢」でした。
最終的にマンションが完成すれば、新しい住民と昔から住んでいる人たちが同じ地域で暮らしていくことになり、新しいコミュニティを築いていく必要があるのです。それにもかかわらず歩み寄る姿勢を見せないことは住民の反感を買うだけです。事業者が誠実に説明し、必要に応じて譲歩をしていれば、ここまで大きな対立にはならなかったかもしれません。
マンションの建築は、一件失敗すれば会社の存続に関わることもあるほど、大変な仕事です。それに対して事業者が一棟のマンションで得られる利益は僅かなもの。また建設業者も、一棟のマンションで得られる利益はほとんどありません。だからこそ失敗は許されないのです。
反対運動が起きた場合には、まずは業者の方は地域住民と丁寧に話し合いをしてください。仮に納得は得られなくても、真摯に協議をすることで、強硬な法的な紛争を防げるケースは少なくありません。法的紛争というのは住民側にとっても最終手段であり、経済的、また心理的にも負担の大きいものだからです。
5 事件の裏側にあった「水路」
この事件が終わってからしばらくして、当時この建築確認を担当していた広島市の元建築主事と話す機会がありました。
彼によると、確認機関はA地とB地の間の通路を「水路」と判断したため、2つの土地をまとめて敷地とすることを適法と考えたそうです。公図上、この通路は「青線」と呼ばれる線で表示されており、水路とみなされるものでした。こうした行政上の解釈が、最初の建築確認の根拠になっていたのです。
事件ファイルには当時の建築審査会の決定文も掲載しています。
こちらを読むと、なぜ今回のような結論になったのか、より深く理解できると思います。
裁決の根拠は、公図上の青線が水路ではなく里道だったという事実に基づいて判断しておりますが、
実際には周辺住民の住環境の悪化への強い懸念が、こちらの主張の根幹にあることがお分かりかと思います。
まとめ
今回の事件は、たった一つの通路(水路)の扱いをめぐって、マンションの規模が13階から7階へと変更を余儀なくされた、非常に珍しいケースでした。
しかし、その背景には、住民との信頼関係を築けなかった事業者の姿勢がありました。
この事件は、信頼関係の構築の大切さを強く教えてくれる実例でした。