~こんな案件ありました~「15階建てのマンションが7階建てに?その理由は?」その2
前回ご紹介したマンションの建築をめぐる争いについて、今回は続編です。
私たちがとった二つの申立ての行方と、意外な結末と、裁判にまつわるドタバタ劇をお話しします。
1.仮処分申請と建築審査会申立
まず、裁判所に対する仮処分申請では次の5つの違反を主張しました。
①住環境の悪化
②敷地の一部が借地であること
③開発行為についての申請・許可がないこと
④接道義務違反
⑤建ぺい率・容積率違反(A地とB地を一体の土地として利用できない)
同時に、広島市建築審査会に対しても建築確認取消請求を提起。
内容は全く同じもので、裁判所と審査会に同時進行で審理されることとなりました。
2.仮処分の結果
仮処分申請は一度だけ審尋期日が開かれました。
しかし私たちの主張にはまともな理由も付されず、あっさりと棄却。
まるで門前払いに近い形でした。
当然すぐに高等裁判所に抗告しましたが、雲行きは決して明るいものではありませんでした。
3.建築審査会での闘い
一方の広島市建築審査会。
こちらの相手方は建築業者ではなく、建築確認を行った「民間確認機関」でした。
当時(平成17年)、建築確認業務は民間に移行したばかり。
広島市ではCという会社が認可を受けており、これが処分庁となっていました。
申立書に対して答弁書が提出され、さらにこちらも反論書を出します。
その後、審査会期日が開かれることとなりました。
審査会が開かれること自体が大変珍しい出来事ですが、この時点では私自身も当方の主張が認められるとは思ってもいませんでした。
4.公開の場での主張
審査会には申立人全員が出席。
裁判と違い、すべて口頭で説明しなければなりません。
傍聴者にも理解できるように、一つ一つ丁寧に、理路整然と述べる必要がありました。
私たちが最も力を入れたのは、やはり⑤建ぺい率・容積率の計算方法。
A地とB地を一体として扱う根拠規定及び通達を示すことなく、
「合算して計算することは許されない」という一点に集中して主張しました。
これが後に大きな意味を持つこととなります。
5.まさかの展開
審査会期日が終わった後、追加の主張書面と反論書を双方が提出しました。
そして一か月ほど経った頃、審査会事務局から電話があり、
「決定が出ました。」とのこと。
詳しい内容はよく覚えていません。
というよりも、私自身が電話口であまりきちんと聞いていなかったように思います。
後日届いた決定書の日付を見ると、電話をもらった日付と同じ。
おそらくその時点で取消決定が出ていたのでしょう。
6.NHK全国ニュースに!
ちょうどその日、事務所にはNHKの記者が取材に来ていました。
「何かニュースはありませんか?」と聞かれたので、
事件のあらましを説明したうえで、「決定書はまだ読んでいないが、マンションの建築確認の取消決定が出たらしい」とだけ伝えました。
記者は私の事件記録を丁寧に調べあげ、広島市建築審査会に取材。
その日のうちにNHK全国放送で大々的に報道されてしまったのです。
これには他の報道機関もびっくり。
通常、弁護士会では事件報道の扱いについて、警察記者クラブの幹事会社を経由して流すという慣例があるのですが、普段そのようなニュースにされるような事件を取り扱った経験もほとんどなかったことから、知らず知らずルールを破ってしまいました。
後日、抜かれた新聞記者から恨み言を言われました。私もまさかこんなことになるとは、と正直に謝罪し、反省するほかありませんでした。またこの事件は行政事件だったので、担当の行政記者の方にも後日謝罪しました。
7.決定書の内容
届いた決定書には、主張①~④は残念ながらすべて理由なしとされました。
しかし⑤については、以下のような記載がなされ、私たちの主張が正面から認められたのです。
「…次に、請求人たちは、本件建築計画の敷地は里道によって画されているため一体性が無く、さらに里道と敷地との間には段差があるため、敷地として一段の土地とは認められず、また里道と敷地との間の段差部分に計画されている車路には建物が建築されるため、緊急用車両の接近、離合に差し支える計画で、安全上、防火上の観点からも支障がないというのは誤りであり、したがって本件建築計画は容積率などの制限を満たしておらず違法であると主張している。
一方、処分庁は、一体的に土地利用するため、里道の行政財産使用許可を受けており、用地上不可分の利用計画であり、本件確認処分を行うにあたり、法第93条の規定に基づく広島市佐伯消防署長の同意を得ており、安全上、防火上の観点からも支障がないと認められることから、敷地として一段の土地であると主張している。
当審査会として判断するにあたり、裁判例等により示されている点を述べると、法施行令第1条第1号において、敷地とは「1の建築物または用途上不可分の関係にある2以上の建築物のある一団の土地」とされており、また裁判例において、一団の土地とは「当該建物と用地上不可分の関係にあり、これと共通の用途に現実に供せられている土地であって、河川、道路、囲障等によって隔てられずに連続した土地をいい、登記簿上の地目・筆数、所有権の有無とは関係なく、客観的に一団の土地をなしていること」とされている。
次に、一団の土地として具体的な判断をする際においては、国土交通省住宅局内建築基準法研究会編「建築基準法質疑応答集」(以下「法質疑応答集」という。)において、「里道または水路により分断されている場合、原則的には、各々別敷地として取り扱う事となり、(中略)ただし、水路により分断されている場合で、水路管理者から占用許可や工作物設置許可を受けた橋等により用途上不可分の利用がなされ、安全上、防火上の観点から支障が無ければ、一つの敷地とみなすことも可能である。」とされている。
以上のことを踏まえ、本件確認処分について考えると
(1) 本件建築物と里道を隔てた土地の駐車場は、本件建築物である共同住宅の購入者が使用する者であり、用途上不可分である。
一方、
(2) 本件建築物の敷地の間の里道は、法の規定に基づく道路ではない。しかし、法質疑応答集においては、「里道または水路により分断されている場合、原則的には、各々別敷地として取り扱う事となる。」とされているところであり、里道は水路と並び原則としては一団の土地を画するものである。
これは、里道には道路と同様の効用を果たしうる程度の実態を備えているものもみられることから、そのような里道については道路と同様に扱う事を述べたものと解される。そもそも河川や道路等によって一団の土地を画することは、建ぺい率の基準となるなど法における集団規定の基礎をなしているところ、法質疑応答集は、里道や水路を、道路や河川でないとの形式的理由から一律に敷地を隔てないものとするのでなく、その実質からみて、一団の土地を画するものであるか否かを判断しようとする考えを示しているものといえる。
そこで本件里道について検討すると、本件里道は、実際に一般交通の用にどの程度供されているかはともかくとして、現実に人の往来が可能なもので、幅員は約2メートル程度あり、機能としては道路と何ら区別できるものではない。したがって、本件里道は、裁判例で示されている「河川、道路、囲障等によって隔てられずに連続した土地」という一団の土地の定義に対して、この定義の道路と少なくとも同様の効用を果たしうる程度の実態を備えているものと考えられる。
もとより法質疑応答集が「原則的には」と述べていることから、里道または水路により分断されている敷地であっても一団の土地として取り扱う例外的な場合はありうるものであるが、処分庁の主張では、かかる例外的な取り扱いとしての明確な論拠としては乏しいと言わざるを得ない。
このことから、本件里道は、今まで述べたように、道路と同様の効用を果たしうる程度の実態を備えており、本件里道により分断されている本件建築計画の敷地を、別敷地として取り扱うのではなく、例外として同一の敷地として扱う、すなわち、一団の土地として判断するまでの特別な理由があるとは言えない。
以上の事から、本件建築計画の敷地は、敷地の定義である一団の土地に関する裁判例で示された「河川、道路、囲障等によって隔てられずに連続した土地」という定義に当てはまるとは言えないと判断せざるを得ない。
したがって、本件建築計画の敷地は、建築物が建築される土地(●)のみであり、建築計画で示された駐車場部分の土地(●)は、本件建築計画の敷地とは判断できないため、本件建築計画の用途地域(第一種住居地域)の法52条第1項及び第2項の規定に基づく建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合すなわち容積率の上限である200パーセントを違反しているのは明らかであり、本件確認処分は違法であると言わざるを得ない。…」
次回は、この決定がどのように実際の建築計画に影響したのか、いよいよ15階建てのマンションが7階建てになってしまったその経緯を具体的にお話しします。
お楽しみに!