2024.04.10

~こんな案件ありました~「損害賠償請求債権は破産決定後に免責されるのか?」

#板根富規弁護士#判例・裁判例

1 事案(前半)

原告(当職が代理人)と被告は10年前に離婚し、原告は離婚慰謝料と婚姻中に無断引き出しされた預金について損害賠償請求訴訟を提起しました。
原告の請求はいずれも認められました。

2 事案(後半)

被告は原告に対する支払いをする前に破産申立を行い、その後破産・免責決定が確定しました。
破産手続きにおいて免責許可決定がなされると、破産者は破産債権について責任を免れます。(破産法253条柱書)
この事件でそのまま当てはめると、破産者である被告は、原告の上記損害賠償請求債権について責任を免れることとなります。
被告は破産を理由に、原告に対して一切の支払いをしませんでした。

3 非免責債権

もっとも、一部の破産債権は免責の効力が及びません。(破産法253条1項但し書き)
これを「非免責債権」といいます。
「非免責債権」の中には、『悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権』(破産法253条1項2号)が含まれます。
原告代理人である私は、原告の損害賠償請求債権は上記非免責債権に当たるので、任意に支払うよう要求をしましたが、被告は応じませんでした。

4 時効の問題

判決から10年近く経過しました。
判決に基づく請求権についても10年の時効が存在します。
この度、支払いを得られずどうにかしたいと考えている原告から相談を受けました。
悩んだ末再度被告に対して訴訟を提起することとしました。
悩んでいたことには理由があります。

①破産法253条1項2号の解釈
「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」の解釈には争いがあります。
同法は加害者への制裁の観点から、このような損害賠償請求権を非免責債権と定めていると考えられます。
もっとも、ここでいう悪意とは厳格に解すものだと言われており、例えば離婚における慰謝料請求権は含まれないとした裁判例もあります。
本件の場合、離婚慰謝料については請求が認められない見込みが高いと思いました。
一方で、無断で預金引き出す行為は窃盗・横領であって、「悪意で加えた不法行為」としてもっぱら非免責債権にあたるのではとも感じました。

②訴訟費用の問題
新たに訴訟を提起するとなると、少なからず訴訟費用がかかります。
また、ここまで一切の支払いをしていない被告にどれくらいの資力があるのか全く不明でした。
そのような見通しが立たない中で、原告に新たな負担を強いることに不安がありました。

結局、過去を清算したいという原告の強い希望もあり、被告に対して上記慰謝料請求の部分を除き、損害賠償請求の部分についてのみ再度支払いをするよう訴訟を提起しました。

5 意外な結末

訴訟を提起し訴状を送付した段階で、被告は遅延利息込みで全額の支払いに応じるという申し出がありました。
被告にどのような事情があったのかは私にはわかりません。
仮に裁判になったとき、今回のケースだとどのような判断がされたでしょうか。
いずれにせよ根気よく支払いを求めることが重要なのだと再認識させられた事件でした。