2023.07.25

判例記事紹介 破産法253条1項2号の「悪意」の判断基準

#板根富規弁護士#判例・裁判例

金融・商事判例NO.1670 (2023/07/15)

 

破産法253条1項各号所定の債権については、明文で破産免責の対象から外されているが、その中に2号所定の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」がある。

ここでいう「悪意」の解釈については学説上の争いがある。

かつては、破産免責制度の立案担当者の意図を汲んで、「悪意」とは「不正に他人を害する意欲を指すのであって、不法行為の要件である『故意』の概念とも異る。」とする、積極的な害意を必要とする見解が主張された。(害意説)

これに対し、破産免責制度の母法である1898年アメリカ連邦倒産法の非免責債権に関する条項の解釈からすると、単に故意になされた侵害行為で足り、認識ある過失であっても悪意と評価されうるとする見解が有力に主張された。

しかし、平成16年に成立した現行破産法は旧破産法366条ノ12条2号の流れを汲む破産法253条1項2号とは別に、同条同項3号として、「破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」を新たな非免責債権として定めたことを受け、ここでいう「悪意」とは積極的な害意のことを指すと解するべきだとして、害意説が通説となった。
いずれにせよ、重要なのはどのような事実をもって「害意」を認定するのかということである。裁判例はいずれの説によっているかは必ずしも明示せず、どちらかというと害意説のような説明の仕方で「悪意」を認定している。その際にどの裁判例でも共通しているのは、破産者が、不法行為被害者に対して財産的損害を与えることの認識を有していたかを重視している点である。

本日紹介した金融・商事判例NO.1670 2023/07/15では破産法253条1項2号の解釈について、東京高判令和4・12・8の裁判例のほか、旧破産法と現行破産法における「悪意」の認定について、多くの裁判例が紹介されている。

どのような事実をもって財産的損害を与えることの認識を有していると認定されるのか、とても参考になるのでぜひ読んでもらいたい。