2025.10.22

~こんな案件ありました~「15階建てのマンションが7階建てに?その理由は?」番外編

#板根富規弁護士#判例・裁判例#欠陥住宅・住まいのトラブル#不動産

今回は、「15階建てのマンションが7階建てに?」の番外編です。
一般的な建築禁止の仮処分についてお話いたします。
結論から言うと、この事件は敗訴でした。
同じくマンションの建築禁止の仮処分を争った先の事件とは対照的な結果に終わったため、強く印象に残っています。
そもそも「建築禁止の仮処分」で勝てることは、ほとんどありません。体感的には99%が敗訴といってよいほど、ハードルが高い事件です。

2.「建築協定」とは?

まず、「建築協定」とは何でしょうか。
これは、地域の住民同士が自主的に定める建築ルールのことです。
たとえば「この住宅地では高さ10m以下の建物にしましょう」「景観を壊さないようデザインに配慮しましょう」といった取り決めを、みんなで話し合って決める仕組みです。

具体的には建築基準法第69条に定めがあり、
市町村が指定した区域内で、土地所有者や借地権者が合意して定めることができます。
ただし、正式に建築協定として成立するには、市町村長の認可など法的手続きを経なければなりません。

(参考:建築基準法第69条
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201#Mp-Ch_4-At_69)

3.地域に根づいた“事実上の建築協定”

この事件の舞台は、長年にわたって「建物の高さは10m未満」という地域の事実上の合意が守られてきた住宅地でした。
正式な建築協定の手続きはしていませんでしたが、住民たちは景観や住環境を守るために、自然とこのルールを守ってきたのです。実際、事件の相手方となった不動産会社M社も、7〜8年前に建てたマンションでは高さ9.99メートルに抑えていました。しかし今回は「4階建て・高さ約12m」の新しいマンションを建てる計画を立てたのです。
これに対して、近隣の住民約10名が立ち上がり、私のもとへ相談に来られました。

4.建築禁止の仮処分を申し立てる

私は依頼を受けて、M社に対し「高さ10m未満にせよ」という建築禁止の仮処分を申し立てました。
主張の柱は、「地域住民の間で実質的な建築協定が成立していた」という点です。
法律上の手続きはなされていなかったものの、

  • 長年にわたり高さ10m以下の建物しか建っていない
  • 各住民がそのルールを理解し、守ってきた
  • M社もその慣行を知っていた

という事実をもって、「事実上の協定」としての拘束力を訴えました。
また証拠としては、

  • 各住民の意見書
  • 地域に10mを超える建物が存在しないことの確認
    などを提出しました。

5.審理が進まぬまま建物は完成へ

しかし、仮処分の審理は長期化しました。
M社はその間も建築を止めることなく続行。
こちらが何度も裁判所に「早く決定を出してほしい」とお願いしても、なかなか決定は出ません。

そうこうするうちに、建物は4階部分まで完成してしまいました。
そして10カ月が経過したころ、ついに建物は全体として完成。
その後に出された決定は…棄却でした。

理由は「建物がすでに完成しているため、建築禁止の意味をなさない」というものでした。

6.仮処分の難しさと、敗訴の意味

この事件から学んだのは、仮処分手続きの時間との戦いです。
かといって裁判官を急かせばあっさりと棄却されるリスクがあり、
慎重に説得しようとすれば、その間に建物が完成してしまう。
まさに板挟みです。
そして、建物が完成してしまえば、次は「建物の取り壊し請求」という別の段階になります。
ところが、そこにはすでに新しい住民が入居している場合もあり、
今度は建築業者との間だけでなく、「旧住民 vs 新住民」という新たな対立機軸が生まれてしまうのです。
その結果、将来的に町内会など地域コミュニティの機能まで失われることもあります。

7.おわりに:敗訴を受け入れる勇気

この事件は、残念ながら敗訴に終わりました。
しかし、地域の人々が長年守ってきたルールを、法的にどう扱うかを改めて考えさせられた出来事でした。
仮処分で敗訴したときは、潔く矛を納めることも大切です。
この事件ではそういったことを学ばせていただきました。
このように一般的にはマンションの建築確認を争うのは難しく、先の事例はとても珍しい例だったという事をお分かりいただけましたら幸いです。