2024.09.20

特許権侵害訴訟~「ポケモン」任天堂 vs 「パルワールド」ポケットペア~

#スタッフ#特許・知的財産#板根富規弁護士
  • 任天堂のプレスリリース

https://www.nintendo.co.jp/corporate/release/2024/240919.html

2024年9月19日に、任天堂から「パルワールド」というゲームをリリースしている「ポケットペア」相手に訴訟提起した旨の発表がありました。パルワールドというのは、架空のモンスターを捕獲・使役して、拠点を建設するなどして遊ぶ、オープンワールドサンドボックスビルダーゲームです。ジャンルを言葉にするとイメージが難しいですが、マインクラフトにポケモンが出てくると言ったら、わかる方もいるかもしれません。
2024年の1月に登場以来、そのビジュアルがポケモンを思わせることや、ボールを投げてモンスターを捕獲する様、モンスターが食材になる様、捕まえたモンスターを強制労働させる様から大きな話題を呼びました。良く言えばダークユーモアのあふれるオマージュ・パロディのゲームと言えます。悪く言えばパチモン。
特許訴訟は非常に複雑なので解説は後日に譲るとして、今日は簡単に訴訟を取り巻く事情を、弁護士の視点から考えてみましょう。なお最近のゲームに関しては、弁護士は詳しくないので、事務が解説を加えております。

 

  • ポケットペアの声明

https://www.pocketpair.jp/news/news16?lang=ja

ポケットペアによると、今後の運営に変更はない予定との事です。また訴訟に労力を割かざるを得ないことについて残念だという声明を出しています。加えてインディーゲーム開発者たちへの自由な開発が妨げられることへの懸念が述べられています。

 

  • 特許権侵害での訴訟

リリース当初からビジュアルが、あからさまにポケモンを思わせるものであること、ボールを投げてモンスターを捕獲する様から、著作権的な法的問題性を心配する声がありました。しかしながらこの度の訴訟は特許権侵害で訴えに至った様です。

 

  • 著作権侵害訴訟の難しさ

もっぱら著作権侵害を争うとき、著作物の①類似性②依拠性が問題になります。
パルワールドのように、単にビジュアルがポケモンを想起させるとしても、ポケモンに依拠したと立証することは簡単ではありません。
またプログラムの著作物の著作権侵害を検討するにしても、ソースコードをそっくりそのまま拝借しているなど、余程のことが無い限り、通常は考えられません。
そういった事情から、今回は任天堂及び株式会社ポケットモンスターの保有する特許権を侵害するものとして、訴訟を展開することを考えたのでしょう。

 

  • 特許訴訟の終着点

特許訴訟はある程度の段階で、お互いに妥協できるポイントで和解となることが多いです。例えば特許実施料(ライセンシー)の支払いの合意、クロスライセンス契約(特許の相互利用)や、それ以外の相互協力の確認といった形で和解となるパターンがあります。

  1.  任天堂の訴訟に伴うコスト・リスク
    任天堂は多様な特許を保有していますが、「vsコロプラ訴訟」や「vsマリカ訴訟」のように、自社の保有する特許を守ることや、ブランドのイメージを保つため、という名目で、これまでも知財訴訟を提起しています。この度の訴訟ではパルワールドのリリースから6ヵ月間、特許侵害訴訟を検討し続けてきたということで、訴訟の準備は万全でしょう。ただ一口に訴えたと言っても、任天堂からすると自らの保有する特許の有効性や、その範囲が争いになり得るので、相手方の出方によっては、自らの保有する特許の効力が弱まるリスクを抱えています。実際にコロプラ訴訟では、一部の発明の範囲を限定するなどの訂正審判を申し立てる必要がありました。
  2. ポケットペアの訴訟に伴うコスト・リスク
    対するポケットペアはインディーのゲーム開発グループで、大ヒットを受けて、マイクロソフト、ソニーとの協力体制を築いているものの、企業としての規模は非常に小さい新興会社です。ポケットペアの側からすると、訴訟に割く多大なコストを思えば、早い段階からの和解がもっとも望ましいでしょう。もっとも特許無効を主張して、徹底抗戦することも考えられますが、複数の特許権侵害を主張する任天堂の請求をすべて躱すというのは、金銭・労力・時間的にも大きなコストがかかり、その上で反論が功を奏しないリスクもあります。

 

  • 和解の落としどころ

和解を検討するとしても、新興企業のポケットペア相手に、任天堂がクロスライセンスを提案するメリットはほぼ考えられません。また任天堂は、名目上特許訴訟を提起しているものの、自社のブランドのイメージを保つことを目的としているので、ライセンシーの支払いで合意するのも難しそうです。特許侵害部分のゲーム内容・演出の変更を前提に、ゲーム開発や相互協力体制の構築などを確認する形で、場合によっては今後のパルワールドの任天堂プラットフォームでの展開和解も視野に、和解案を模索していくことになるのかもしれません。

 

  • インディーゲーム開発の萎縮?

ポケットペアはインディーゲーム開発者の自由な発想の萎縮を懸念しています。昨今ゲーム業界はインディーゲーム開発が盛んであり、個人や非常に小さいグループが意欲的にゲームを発表しています。開発者において、任天堂グループに限らず、おおよそあらゆるゲーム会社の特許を全て確認した上でゲームを作るというのはおおよそ不可能でしょう。一方で特許権者が特許権の行使として差止・損害賠償請求をすることは、権利者としての当然の権利行使と言えます。
もっとも任天堂は「Nintendo switch」発表後に、インディーゲームの開発しやすい環境を整え、実際に開発者たちと連携を取りながら、数多くのインディーゲームのリリースを可能にしてきました。インディーゲームは過去のゲームへのリスペクトとオマージュによって作られているものも少なくなく(有名なものは「Stardew Valley」と「牧場物語」、「Vampire Survivors」と「悪魔城ドラキュラ」など)、もちろんポケモンや他の任天堂作品に影響を受けた作品も多々あります。任天堂としても、小さいながらも大きな熱量を持ったインディーゲームのパワーを自社のコンソールを押し上げる原動力にしていきたいのでしょう。これまでに任天堂からのインディーゲーム会社に対する訴訟というのは提起されたことがありませんでした。
こういった背景の中で、パルワールドを相手に敢えて訴訟に出た理由としては、①ポケモンを強く意識したデザイン・システム、②モンスターを使役、捕獲する様をブラックユーモア的に描いている点、③実際にこのゲームが歴史的な販売数を上げて影響力を持ってしまったこと、が考えられます。パルワールドは、ポケモンにはない独自のユニークさがありつつも、ポケモンという先行の作品ありきのシステムやデザインにして、本家へのリスペクトを多少欠いてしまっているように映る点が、この度の訴訟に至った要因の一つとして挙げられるでしょう。これからのインディー開発者は、二の轍を踏まないように、オマージュの手法には一定の配慮が必要かもしれません。

 

  • 任天堂の特許を見てみよう!

さて、この度の訴訟は任天堂と株式会社ポケモンが共同で提起するという事でした。そこで、実際に任天堂とポケモンの保有する特許権を確認してみましょう。
特許は公開の情報なのでその気があれば、だれでも閲覧することができます。
タッチタイピングの操作向上に関する技術、楽しい歯磨きの方法、睡眠に関する技術、参加者の行動の自由を尊重した、イベントの正しい順路の誘導に関する技術、果てはオンライン上での詰め放題の買い物に関する技術まで…こうしてみると株式会社ポケモンがユニークな特許を数多く保有していることが分かります。
ざっと見て単刀直入に一番当てはまりそうなものとしては、特許7398425(ゲーム内の空間上でモンスターを捕獲する方法に関する技術)などが見られました。
その他、特許6793765(バーを利用して表示するレベルアップの演出に関するもの)、特許7071308(フィールドバトルなどでの、共闘によって一体感を得られる仕組み)、等、部分的に触れるものは探すとまだまだありそうです。

 

  • 終わりに

ゲーム業界にとっては大きなニュースですので、今後が気になる方も多いでしょう。
世間ではビジュアルが似ていることを切り取って、著作権で訴えたように混同した意見も散見されます。いざ裁判が始まれば情報が公開されますので、気になる方はそちらを注視していきましょう。
次回は元気があれば特許権の侵害訴訟について書いてみたいと思います。
ありがとうございました。