2023.08.10

~こんな案件ありました~ 「車のレストア費用は取り戻せるの?」

#板根富規弁護士#判例・裁判例#交通事故

1.ご挨拶

前回の交通事故の記事でちらっと触れましたが、この事件にはもう一つ争点がありました。
それは、「事故で破損した車がレストアされた車だった場合、レストア費用も請求できるか」という問題です。

2.レストアとは何か

レストアとは英語のrestoreをそのまま使った言葉で、原語の意味では「復元する」という意味になります。
一般的には「車のレストア」というと、複数の意味で使われます。
一つは「実用目的のレストア」です。
車を走れる状態に戻すという実用面での復元を重視した意味合いで使われます。
もう一つ、高級車やビンテージ車を新品同様に戻すという意味でレストアを使うことがあります。
こちらは、車の機能面以外の内装や外装といった装飾面も重視して、新品同様に戻すという意味で使われます。
今回問題となったのは、「実用目的のレストア」でした。
この事故でAさんは、日本で最初に製造・販売された、某社の高級車Xが大変お気に入りで、長年大切に乗っておられました。
Xに乗り始めてから13年を超えたころ、ドライブ中にエンストしました。
原因はエンジンの故障で、修理はできず新しいエンジンを入れるしかないとのことでした。
Aさんはこの車に愛着があり、生涯乗り続けたいと思っていたため、エンジンと内装を完全に載せ替えることにし、レストア費用として180万円を払いました。

3.今回の事故

ところが、今回の事故が原因で、Xを廃車することになりました。
相手方の保険会社の提示は全損扱いで、レッドブックの損害賠償額を提示してきました。
レッドブックとはオートガイド自動車価格月報の通称で、中古車損害額の算定の資料とされるものです。
これに従うと13年近く乗りつづけたXの価値は60万円もしません。
Bは、レッドブックの損害額60万円をAの過失3割として過失相殺して、損害額は50万円だと主張しました。
私は、それはあまりにもアンフェアだと感じました。
Xはレストアしたばかりで、これからもずっと乗り続けるはずの車だったからです。
そのため、こちらはレッドブックの損害額とレストア費用を加味して220万円が損害額だと主張しました。
主張をするにあたって悩んだのが、主張を裏付けるだけの根拠です。
しっかりとした主張を立てるために、「裁判例にみる交通事故物的損害『全損』」という実用書を参考にしたのですがレストアに関する事例はありません。
そこで考えたのが、そもそもAさんが今回の事故で被った損害は、車Xの全損であり、その損害額は車Xの経済的価値そのものから算定するべきである、ということでした。
そのため、レッドブックはあくまで中古車市場の価格をまとめたものにすぎず、損害算定基準の一つに過ぎないことを主張しました。
また、交通事故以外の事例、例えば建物の場合、船の場合などを比較に出しました。
最後は最高裁で判例を作ろう!との思いで準備書面を起案しました。

4.和解案の提示

裁判所は、レストア費用も事故の損害に含まれるとの見解を示しました。
そのうえで、レストア後に車Xを利用した期間について減価償却を認め、150万円程度に減額をした額で和解案を提示しました。
Aさんがこの案を受け入れたので、和解が成立しました。

5.最後に

交通事故事件では、損害賠償額の算定は当事者ともにかなり争いになります。
これまでは車をレストアしてまで乗ろうという人も少なかったので、損害賠償額の中にレストアが含まれるのか問題になることはありませんでした。
しかし、今や趣味・嗜好は多様化し、一つの車を大切に乗り続けるという選択も一般的なものとなってきています。
今回のレストアは、古い車をこれから先もずっと走り続けられるようにするもので、車の経済的価値を上げる内容のものであったことは明らかでした。
そうすると、損害賠償額の算定の場面で、レストアにかかった費用が損害に含まれないと考えるのはあまりにも理不尽でしょう。
その当然のことが、裁判上の主張で認められたことに意味があったと思っています。
当事務所では、その当たり前のことをしっかり主張できるように、経験豊富な弁護士たちがいろんな角度から事件を分析しています。
交通事故のことでお困りでしたら、ぜひとも私たちにご相談ください。